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病態関連遺伝子機能解析室

染色体が親から子に伝達される瞬間を捉える

昆虫を使ってゲノムの伝達に影響を与える薬剤や遺伝子を探索する

生物の遺伝子は染色体にのっている。親から子に染色体が伝達される過程に異常があるとダウン症などの遺伝病の原因になります。当研究室では遺伝子操作の容易なショウジョウバエを用いて、雄の減数分裂において染色体の動きと細胞内構造の変化を同時に観察できる多重蛍光イメージング法を構築しました。これを用いて、染色体伝達に影響を与える遺伝子や薬剤を広く探索しています。そこで新たに見出された遺伝子はヒトにも保存されているので、ダウン症などの染色体異常が生じる原因の解明に役立ちます。

図1. 多重蛍光イメージング法によるショウジョウバエ雄減数分裂における染色体と微小管のライブ観察

細胞が増殖する際にも染色体は娘細胞に正確に伝達されます。癌細胞は、これの異常による“染色体数の不安定性”を示します。当研究室では、ショウジョウバエ初期胚において染色体の動きと細胞内構造の変化を同時観察できるバイオイメージング法も構築しています。昆虫を用いて、新たな細胞分裂制御遺伝子、癌関連遺伝子の同定し、癌の新規バイオマーカーの開発、それを標的とした抗癌剤の探索をめざします。

 

ショウジョウバエでアンチエイジング

アンチエイジング物質と酸化ストレス物質の生体検出法の開発

抗酸化物質の中にはアンチエイジング効果を示すものもあります。これらの物質の探索には生体を用いた評価が必須ですが、これにマウス個体を用いると時間とコストがかかりすぎます。当研究室では、活性酸素を除去するSOD酵素を低下させると早期に老化症状を示すことをみいだしています。この成虫を用いることにより、寿命延長効果があり、かつ筋肉、神経、消化管の老化を抑制できるアンチエイジング物質の生体検出法を開発しました。これを用いて、アンチエイジング効果を示す天然物を探索して、有効成分の精製、同定もめざしています。また、この評価法は酸化ストレスを発生させる医薬品や添加物の検知にも用いることができます。

 

図2. ショウジョウバエの早期老化系統を用いた寿命延長効果および筋肉老化の抑制効果を示す物質の評価、探索

 

糖尿病の特効薬を探索する

ショウジョウバエの1型糖尿病モデルの作製とそれを用いた治療薬の探索

糖尿病にはインスリン産生ができない1型とインスリンが作用しない2型があります。昆虫にもインスリンおよびそのシグナル伝達経路が保存されているので、解析が容易なショウジョウバエの糖尿病モデルを構築しました。インスリン産生細胞特異的に強いストレスを与えると細胞死が誘導されます。この個体は1型モデルになります。またインスリン受容体の突然変異体は2型モデルになります。どちらも体液中の糖濃度が高く、その影響で成長阻害を示します。さらに、精子形成も強い影響を受けます。インスリンは精子幹細胞の分裂を誘導することがわかりました。昆虫モデルは、安価で迅速、かつ一度に多数の検体の調査が可能なため、糖尿病の治療薬の1次スクリーニング系として使用できます。

図3. ショウジョウバエの1型、2型糖尿病モデルとインスリンによる精子幹細胞の分裂誘導

 

昆虫から新しい癌抑制遺伝子を探す

ショウジョウバエの白血病モデルから新規の癌抑制遺伝子を同定する

細胞癌化に関わる癌抑制遺伝子は、ヒトだけでなく多細胞生物に広く保存されています。ショウジョウバエの血球細胞の発生、分化に必要な遺伝子の突然変異体の中には、造血組織の癌化が観察されるものがあります。これらの原因遺伝子はヒトにも相同遺伝子が存在し、遺伝病との関連が指摘されています。現在、白血病様の表現型が表れる原因の解明を進めています。昆虫から新規の癌抑制遺伝子が同定できる可能性があります。がんの新規バイオマーカーの開発、それを標的とした抗癌剤の探索へとつながるシーズの開発をめざします。

図4. 昆虫モデルを用いた新規癌抑制遺伝子の同定とその機能解析の方法